December 11, 2023
「Our GenAI Journey」シリーズの第2弾です。
テクノロジーやエンジニアリングの世界では、ただ優れたアイデアを思いつくことが必要な場合があります。避けられない混乱が新たなリスクをもたらすことを理解した上で、その戦いに身を投じるのです。言ってみれば、飛行機を飛ばしながら、飛行機を構築しなければならないのです。
当然、これは企業という世界で慣れ親しんできたやり方とは全く異なります。私たちは、あらゆる角度から検討を重ね、すべての決断を精査し、その過程で機能性とコスト分析を突き合わせようとします。革新的なアイデアがあっても、ターゲット市場や競合分析といった意思決定の裏付けとなる調査結果を得るまでは、数か月間、議論のテーブルに乗せることも共有することもありません。
去年の夏、当社の経営陣ミーティングでイノベーションに関する簡単なプレゼンテーションを終えた後、ふとひらめいたことがいくつかありました。プレゼンテーションのスライドを閉じて、参加者に質問はないかと尋ねると、日立デジタルサービスのCEOであり、現在は会長を務めるGajen Kandiahが立ち上がり、社内の生成AI(GenAI)導入をまとめ役になるのは私だと発表しました。
GenAIはそのときの出席者の念頭にはありましたが、その発表は前向きで爽快であると同時に驚きでした。このような場面でこうした決定的な任務を与えられたのは、Gajenからの信頼の表明であり、同時に方向性をはっきりと示すものでした。彼は、この分野における当社のオピニオンリーダーであり、このテーマとその可能性に賭ける彼の取り組みと熱意はよく知られていました。
後日、Gajenから私がこの任務に選ばれた理由はいくつかあると説明を受けました。たとえば、私が入社して1年未満だったことも重要な要因だったようです。この事業のリーダーには、経験を積んだ実力者であると同時に、組織内の創造的破壊を実現し、規範に挑戦できる新人がふさわしいと考えていたと言われました。これが非常に重要なことだったのだと彼は言いました。
笑顔でうなづきながらも、私の頭は猛スピードで回転し、To-Doリストを作り、脳内のホワイトボードにやるべき手順を走り書きしていました。
GenAIチームのドラフト会議
1秒たりとも時間を無駄にできませんでした。翌日オフィスに戻った私は、最高変革責任者(CXO)のSanthosh Sreemushtaと今後の展望について話し合い、ポリシー、プロダクト&エンジニアリング、サービス、社内IT/CIO、マーケティングの5つの部門横断的なチームで構成された最も効果的な集合体を作ることから始めました。
新しい事業計画にありがちなお役所仕事的な遅れを避け、スムーズに計画を進めるため、私はチームメンバーがこの新しい任務をそれぞれの「本業」の一つに加えてもらおうと考えました(創造的破壊を始めよう、と考えたのです)。そこで、リーダーにふさわしいと思われる人物をリストアップし、一人ひとりに個別にメールで協力を求めました。その際、この仕事には先進的なアプローチが必要であること、そして曖昧さを許容できる人材が必要であることを伝えたのです。
これは、絶対的に不可欠な要素でした。プロセスの一環として、私はGenAIを会社のDNAの一部にする方法を見つけたかったのです。それができれば、長期的な取り組みが保証されますし、私やチームの後に続く人たちも考え方を引き継ぎやすくなります。サステナブルな勢いだけでなく、仕組みを作るためにも重要だったのです。
チームの招集
各リーダーにチーム編成を依頼し、メンバーの名前を送ってもらいました。エンジニア、研究者、マーケティング担当者が全員、参加を熱望していると聞きましたが、驚きはありませんでした。午後には、組織が決まりました。
これが6月中旬のことでした。振り返ってみると、1年前のOpenAIのChatGPTの登場から、話題を呼んだ先月のChat GPTプラットフォーム の展開まで、GenAIを取り巻く業界と同じくらいのスピードで、私たちはこのミッションに取り組んだと言っても過言ではありません。重大なリーダー任命からGenAI戦略チームとして初めての公式ミーティングまで、実に2週間の速さでした。誰が考えても、迅速な対応としか言いようがありません。
私は1週間後にメンバーを招集しました。そこで、今後の運営方法、役割と任務、目標(KPIではなく、目標)を設定し、青写真を作りました。まだKPIの段階ではありませんでした。
道しるべを描く
青写真によると、Gajenが強調したよう に、安全策(ガードレール)を確立すること、当社の価値観に沿って計画を進めること、そして全員が学習するとともに進化・成長できるよう柔軟性を提供することなど、複数の作業を同時に進行しなければなりませんでした。
計画を効果的に進めるには、ビジネスの視点から始め、すべてのステークホルダーに平等な発言権を与えながら、内部に向けた作業に取り組む必要がありました。最高情報セキュリティ部門、CIO事務室、法務部門、製品開発のメンバーが議論に参加し、日立ヴァンタラにおいてGenAIを利用する、あるいはその可能性がある人材や部署を詳しく調査しました。次に、ChatGPT、Bard、そして今回のGeminiのようなGenAI公式アプリの使い方から、プライベートなアプリ、ソフトウェア開発における共同パイロットまで、公式に承認された使い方を規定する方針書の作成に着手しました。
最初の行動項目として、公式/プライベートを問わず、GenAIツールを使用するタイミングや方法について、全従業員に適用される方針書を作成することに同意しました。また、製品開発からマーケティングに至るまで、社内で承認された慣行のパラメータを定めることにしました。これは、会社を導く道しるべとなるものであり、現在だけでなく、今後の発展の指針となるように、先見的に未来を見据えたものです。このプロジェクトを企業のDNAの一部にすること。この大切なミッションを忘れないようにしなければなりません。
この一見、実用的なアプローチは、実は私たちにとって重要な分岐点でした。方針書の項目を掘り下げていくうちに、それ自体が一つの取り組みになることに気づきました。一般的な使い方やデータプライバシーに関する規則や制限の作成から、規制遵守、サイバーセキュリティ、さらにはポリシートレーニングに関するガイドラインの策定まで、すべてが時間を要する作業でした。これによって、他の取り組みが頓挫しないまでも、停滞しかねません。
しかし、私たちは過去に例のない未曾有の時代を迎えていました。GenAIをめぐるイノベーションのペースは非常に目まぐるしく、危機感を高める必要がありました。チームのメンバーは、テクノロジーの進化と同じスピードで探索できるよう自由でなければなりませんでした。とにかく、作業を進めなければならないと考え、残りの青写真の実行と並行して方針書を作成することにしました。結局、言ってみれば、離陸と同時に飛行機を作ることになったのです。
ホワイトボードに命を吹き込む
そこから出発し、1)既存の製品にGenAIを統合する方法を決定する、2)ゼロから構築するものを創造的に考える、という2つのはっきりとした道筋に分けて市場展望を描きました。
創造性にあふれた素晴らしいアイデアのリストをホワイトボードに書き出し、項目を減らしていきました。膨大なアイデアが無作為にリストアップされたので、そこから取捨選択し、最もインパクトのあるアイデアを2つか3つに絞る必要がありました。極端なことをするという選択肢はありませんでした。あれもこれも手を出すと、気が散って遅れを招く原因になるからです。
この考え方を早期に確立することは、非常に生産的であることが証明されています。これにより、チームとしての優先事項を迅速に具体化することができたのです。
そこで、方針書のほかに、企業サポートチームの問題解決をスピードアップさせる「コンパニオン」と呼ばれるGenAIエージェントの開発(最終的には、システム構成、管理、トラブルシューティングなどを改善するために、ポートフォリオに直接統合する)、LLMを微調整し、コンパニオンを開発するために使用する「既成」アプライアンスの開発という、2つのプロジェクト策定を開始しました。
知識を学びに活かす
私たちのストーリーを共有できることを嬉しく思います。GenAIの作業に関しては、日立の社内でも何千、何万という意思決定が行われています。しかし、これは私たちだけの問題ではありません。日々お客様やパートナーと対話する中で、多くの企業が同じ話題や問題について、同じように議論が繰り広げられていることを知りました。今はまだ遠いことでも、いずれは同じ道を進むことになるのです。
たとえば、青写真を実行に移す段階になったら、まず理念について解決すべきだと気づきました。導入する大規模言語モデルを1つのみにするべきか、お互いに協力し合える複数のエージェントで構成する小規模モデルアプローチを取り入れるべきか。
多くの企業と同様、私たちもその違いを比較検討しました。そして、小規模なモデルアプローチを選択したのは、1)小規模モデルの方が正確な結果を生成できる、2)幻覚のリスクがはるかに少ない、という少なくとも2つの重要な特徴があったからです。一方、大規模言語モデルを1つ採用すれば、管理は比較的簡単ですが、トレーニングにコストがかかります。
健全な議論を重ねた後、共同パイロットを作成するため、小規模モデルアプローチを採用することにしました。これは、私たちがGenAIへの移行を通して学習した項目に、私たちの技術的な専門知識を適用できる素晴らしい実例でした。
シリーズの第3回では、この学習の考え方を展開します。私は社内の開発作業で感じたことや学んだことを書いていますが、次回は、私の同僚であるHitachi Digital ServicesのPrem Balasubramanianが執筆を担当し、新しいモデルを構築し、新しい課題にリアルタイムで対処する中で、お客様と協力して取り組んできたことを共有します。
GenAIは、私たち全員で進むべき過程であり、それには没頭する必要があるのです。
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